「受験」
今年も受験シーズンがおわりました。
桜咲いた人、残念だった人、いろいろでしょうが、長い人生のほんの一部です。
前を向いて頑張ってほしいなと思います。

さていつか書こうと思っていた私の大学受験の話をします。

静岡県の高校生だった私は四国香川県の大学をひとりで受けに行きました。
母の方針ですべりどめは一校も受けず、全くはじめての大学受験でした。
静岡から香川までは当時、新幹線、宇野線という在来線、宇高連絡船という船を乗り継いでの大変長旅でした。
一人でそんな遠くまでいったことがなかったので、ついたとたんに家に電話して「ここは遠すぎるから一年浪人して近くの学校に行きたい」と母に言いました。
母は「わかった。そうしなさい。でも合格してもキャンセルするということができるのだから試験だけは全力を尽くしなさい」と言ったのです。
そうか、合格してもキャンセルしていいんだなと思ったらちょっと安心。
それから大学の下見に行きました。
当時香川医科大学は町中からたいへん遠く、交通手段も少なかったのでタクシーを使って下見に行きました。
タクシーに乗っていると周りの風景がどんどん田舎になり、誘拐されているのではないかと心配になったほどです。
きっとその不安そうな顔に運転手さんは気づいたのでしょう。
「大学は田舎にあるけん、あと10分くらいで着くけんな」
ようやく白い大学の建物がみえてきて、ほっとしました。
受験会場という立札を見て帰ろうとすると、さっきのタクシーの運転手さんが待っていてくれました。
「たぶんタクシーがつかまらないと思ったけん、待ちよったで」
そのとおりで、ありがたく帰りも乗せてもらいました。
そこで運転手さんから提案がありました。
明日受験に来るのに電車は不便、タクシーも遠くて高いからうちのおくさんに送り迎えさせようというのです。
見知らぬ人の好意にここまで甘えていいのかわからなかったのですが、強引に自家用車の車種とナンバーを書いてくれ、
心配だと思うから実家にも連絡しておくよう言ってくれました。
次の日から2日間の試験、行きも帰りも奥さんが送り迎えしてくれ、最終日の帰りは非番だからとその運転手さんが自家用車で送ってくれました。
そして「受験番号と自宅の電話番号教えて」と。合格発表を見てくれるというのです。
遠くて不安でこんなところには来ないんだと決心していたのに。
受からなくてもいいやと思っているのに。
本当に忘れられない出会いでした。

さて、合格発表の日、学校からの連絡より先に例の運転手さんが電話してきてくれました。
「うかっとるで!!」
この瞬間にやっぱりこの学校に行こうと決めました。

こうして香川医科大学に進学。
相互タクシーという名前しか覚えておらず、その運転手さんを探したのですがその後退職されたようで会えませんでした。

今私がこうしてあるのは、あのご夫婦のおかげです。
合格後、直接お礼は言えなかったけど、あの親切を忘れず、ほかの方へ親切をまわそうとずっと思っています。
そしてしっかり診療することで御礼にかえたいと思っているのです。